大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成12年(わ)61号 判決 2000年7月17日

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

押収してあるビデオテープ一三巻(平成一二年押第三三号の20、21、62ないし72)及びベータ方式ビデオテープ四〇巻(同押号の22ないし61)並びに写真集一六冊(同押号の4ないし19)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

一  電話回線を利用してパソコン通信を接続する専門会社ニフティ株式会社が運営管理するパソコン通信ネットワーク「@(アツト)ニフティ」の会員であるが、同ネットワークの電子掲示板にわいせつ図画及び児童ポルノである写真集等の販売広告を掲示した上、別紙一覧表記載のとおり、平成一一年一一月中旬ころ、及び、同年同月三〇日ころ、同広告を閲覧して購入を申し込んできたAほか一名に対し、男女の性器や性交場面を露骨に撮影した画像を収録したわいせつ図画であるビデオテープ一巻(平成一二年押第三三号の2)及び児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識できる方法により描写した児童ポルノであるビデオテープ一巻(同押号の1)並びに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである写真集一冊(同押号の3)を、同一覧表「販売場所」欄記載の各場所に郵送し同所で同人らに受領させ、代金合計二万五〇〇〇円で販売し、

二  販売の目的で、同一二年一月一二日、千葉県船橋市東中山<番地略>石井荘二〇一号室の被告人方において、前同様のわいせつ図画であるベータ方式ビデオテープ合計九巻(前同押号の32、33、36、40、44、51、58、59、61)、右同様のわいせつ図画であるビデオテープ四巻(同押号の65、70ないし72)並びに前同様の児童ポルノである写真集一六冊(同押号の4ないし19)及び前同様ないし他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるビデオテープ合計九巻(同押号の20、21、62ないし64、66ないし69)、右同様の児童ポルノであるベータ方式ビデオテープ合計三一巻(同押号の22ないし31、34、35、37ないし39、41ないし43、45ないし50、52ないし57、60)を所持し、もって、販売の目的で、わいせつ図画及び児童ポルノを所持し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(争点に関する判断)

一 弁護人は、判示一の事実(販売)に係る写真集一冊及び判示二の事実(販売目的所持)に係る写真集七冊並びにビデオテープ二巻(ほぼ同一内容であり、VHS方式のものとベータ方式のものとが、それぞれ一巻ずつある。なお、当初は他のビデオテープについても同様の主張をしていたが、第五回公判期日における被告人質問及び弁論によると、この主張は撤回したと認められる。)について、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)二条三項三号に規定する児童ポルノに該当しない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。そこで、これらの写真集及びビデオテープが児童ポルノに該当すると認定した理由を説明する。

二  児童ポルノ法二条三項三号の解釈

児童ポルノ法二条三項三号にいう児童ポルノ(以下「三号児童ポルノ」という。)とは、写真、ビデオテープその他の物であって、①衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって②性欲を興奮させ又は刺激するものを③視覚により認識することができる方法により描写したものに該当するものである(数字は条文にはないが便宜上付け加えた)。本件では、①、③は客観的に判断することができることから、特に②の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の意味内容が問題となる。

そもそも、児童ポルノの販売等が禁止され、さらに、これらの目的での児童ポルノの製造、所持等が禁止されているのは、これらの行為による児童に対する性的搾取及び性的虐待が、児童ポルノの対象となった児童の心身に有害な影響を与え続け、児童の権利を著しく侵害するからに他ならない(児童ポルノ法一条参照)。

このように、児童の権利を保護することの重要性にかんがみて、児童ポルノ法は、刑法におけるわいせつの定義、すなわち、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」という最高裁判所の判例(最高裁昭和三二年三月一三日大法廷判決参照)によって確立されている定義とは異なった観点から児童ポルノの範囲を定め、性欲を興奮又は刺激せしめる点は必要であるが、しかし、「徒に」興奮又は刺激しなくても処罰の対象とし(この点で刑法よりも規制対象を拡大しているといえる。)、また、禁止される行為の範囲も業としての貸与、頒布等の目的での製造等にまで広げ、国内外を問わず処罰することとしたのである(同七条参照)。

そうだとすると、問題となっている写真、ビデオテープ等が、ことさらに扇情的な表現方法であったり、過度に性的感情を刺激するような内容のものである場合などに限るなど、特別な限定をしなくても、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められる以上は、三号児童ポルノに該当すると解すべきである。弁護人は、「性欲を興奮させ又は刺激する」との規定の意味を、児童のポーズが意味もなく局部を強調するものであったり、構図などから男女の性交を暗喩していると認められるような場合に限定すべきであると主張するが、そのように限定して解釈すべき理由はない。

三  判断の方法

そして、性欲を興奮させ又は刺激するものであるか否かの判断は、児童の姿態に過敏に性的に反応する者を基準として判断したのではあまりにも処罰範囲が拡大してしまうことから、前記のとおり、児童ポルノの定義から最高裁判所判例の掲げる「普通人の正常な性的羞恥心を害し」という要件が割愛されているとしても、法の一般原則からして、その名宛人としての「普通人」又は「一般人」を基準として判断するのが相当である。

もっとも、三号児童ポルノの範囲が拡大すると、表現の自由や学問の自由等の憲法上の権利を制約することになりかねないという懸念もあろう。児童ポルノ法三条も、この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならないと定めているところである。

そこで、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう「性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビデオテープ等の全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、①性器等の描写について、これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、②着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、③児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、④児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。

四  各写真集等についての認定

1  「Bel Ange(ベル・アージュ)可憐な天使写真集」

ヨーロッパ風の建物内で、ヨーロッパ系と思われる少女(六歳、八歳程度)を写した写真集である。

全八〇頁(表紙を除く。以下同じ)中、全裸写真が約二〇頁を占める上、その他も下着姿(パンツのみを着用した写真や下着をはだけて胸部を見せているような写真もある。)などである。特に扇情的なポーズをとった写真や性器を強調するような写真はなく、性器にはぼかしが入っているものの、着衣の一部をことさらにめくって肌を露出した写真や臀部や胸部を大きく写した写真がある。また、衣服を着用するのが通常である居室などにおいて少女の裸体を撮影し、ベッドの上でことさらに下着の一部を着けていない姿を撮影しているが、このような写真を撮影する必然性ないし合理性も認められず、性欲を興奮又は刺激するのに十分な内容である。

写真集全体の構成を見ても、前記のとおりヌード写真ばかりであり、さらに、表紙には「ユーロ美少女たちの青くみずみずしいプライベートヌード」とうたって、ヌード写真であることを売りにしているものであって、芸術性等が性的刺激を緩和するとは認められない。

2  「美少女ヌード写真集 おともだち 理恵と亜由香」

六から八歳の少女と他一名の少女の写真集である。

全六四頁中、裸体等の写真が約二七頁を占めている上、その他も上半身が体操着で、下半身に下着だけを着用していたり、スクール水着をめくって、胸部を見せたり、体を布にくるんで、裸体を想像させるような写真である。そして、少女があえぐような表情をしたり、性器自体はぼかしているものの、足を開かせて性器が写真に収まるようなポーズをとらせており、扇情的な表現が認められる。性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

なお、右のように扇情的な表現を用いていること、表紙に「美少女ヌード写真集」と記載して、ヌードを売りにしていることからすると、特に性的刺激を緩和する表現は認められない。

3  「ロリコンハウス6月号通巻第7号」

グラビア、漫画、文章による記事からなる雑誌であり、グラビアに、六から八歳の少女が入浴している写真と四から七歳の少女の全裸写真がある。

全一七八頁中、乳首等を撮すなどした裸体等の写真が約二一頁を占める。全体に占める裸体等の写真の比率は比較的少ないが、枚数自体は多い。裸体等の写真部分のみがカラー頁となっており、雑誌の冒頭に掲載するなど、当該雑誌の中心を占めるといってよい。また、風呂内でポーズをとっていたり、エプロンのみを着けた少女が喫茶店の店員として登場する場面があるが、そのような演出をする必然性はなく、扇情的効果のある表現と認められ、性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

また、写真にせりふをつけて漫画形式にした読み物があるが、ストーリーの展開上、少女に着替えをさせて少女の裸体等を見せる必要は認められない。なお、当該雑誌の他の記事は、少女との性交、性交類似行為に関する記事、少女を誘う方法を教示する記事などであり、表紙に「世界一のロリコン専門誌」と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、澁澤龍彦の少女に関する文学作品を紹介する記事があるが、ごく一部に過ぎず、性的刺激を緩和するに至っていない。

4  「ロリコンハウス6月号通巻第13号」

3と同様の雑誌であり、一〇から一四歳の少女が着衣の一部を脱いだ写真と一四から一八歳の少女が入浴している場面の写真グラビアがある。

全一七八頁中、乳首や臀部が映った裸体等の写真は約二一頁を占める。全体に占める裸体等の写真の比率は比較的少ないが、枚数自体は少なくない。

裸体等の写真部分のみがカラー頁となっており、雑誌の冒頭に掲載するなど、当該雑誌の中心を占めるといってよい。表現方法を見ても、ことさらに乳首が見えるように着衣をめくったり、臀部を強調するような写真があり、演出も、裸体に泡をつけたり、シャワーを使ったりする必然性がなく、ガラスに向かってキスをするなど扇情的な部分がある。性欲を興奮又は刺激するに十分である。

なお、当該雑誌の他の記事は、少女との性交に関する記事、少女との性交場面がある漫画等であり、表紙に「世界一のロリコン専門誌」と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、エドガー・アラン・ポーと少女の関係についての文学評論等があるが、ごく一部に過ぎず、性的刺激を緩和するに至っていない。

5  「MAGIC BEAUTYくりぃむれもん」

四から七歳の少女の写真集である。

全三八頁中(ただし、切り取って使用する部分を除く。)、全裸写真が約九頁あり、その他もヌード写真ばかりである。

性器部分は黒く塗潰されており、着衣をまとっている写真もあるが、着衣は透けて見える生地を使っている。少女がアイシャドーや口紅を濃く塗って化粧をして、ワイングラスを持っているなどの演出をしているが、前記のとおり、全裸写真などが写真集の中心を占めていることに照らせば、成人女性をカリカチュアするなどの特段の意味のある表現とはいえず、扇情的効果を狙っているものと認められる。また、着衣の一部を脱いで性器や乳首を覗かせたり、少女が流し目をしたり、臀部を強調するような写真があり、中には性器が見えるように股を若干開いたポーズをとったものもある。表現方法は明らかに扇情的であって、性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

表紙に、全裸の少女の写真を掲載した上、ロリータ写真集と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、特に性的刺激を緩和する表現は認められない。

6  「NEW FACE」

二から六歳の少女の写真集である。

全五六頁中、約三七頁以上が全裸である。その他も、透けて見える生地を体にまとったようなヌード写真に準ずるものである。陰部は黒く塗潰してあるものの、乳首等は写っている。

また、股を開いて性器が見えるようなポーズをとったり、体の線を示すように上体を反らせたり、臀部を強調するように腰をひねったような写真がある。バドミントンのラケットを持っている写真があるが、全裸でラケットを持っている姿を写真に撮る必然性は認められない。描写方法も性的関心を引くようなものと認められ、性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

なお、随所にゲーテやリルケ等の詩を引用しており、一部に写真の内容に沿う詩も引用されているが、写真との関連性は薄く、こじつけといえるもので、表現の主要部分は前記写真であることが明らかである。また、表紙に、全裸の少女の写真を掲載した上、「ロリータ写真集」と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、特に性的刺激を緩和するような表現は見あたらない。

7  「少女の夢。」

ヨーロッパ風の田園風景や邸宅内等で、六から八歳、七から一〇歳、一〇から一二歳等のヨーロッパ系と思われる少女を撮影した写真集である。

全一一二頁中、約七五頁が全裸写真であり、性器が写っていたり、乳首が写っているものが多い。全裸でなくとも、下半身が裸であったり、着替えをする場面など裸体等の写真がほとんどを占める。

性交を暗示させるような扇情的なポーズをことさらにとらせた写真は見当たらないものの、田園風景のもとで裸体等になったり、邸宅内の台所や応接室、ピアノや絵画の前などで通常裸体等になる必然性は認められない。さらに、着衣の一部をめくる姿など性器等が見えるような構図が多い上、逆立ちをしたり、股を若干開くなどして、ことさらに性器が見えるようにしたポーズや、真下から脚部と性器のみが見えるように撮影している場面があり、性欲を興奮又は刺激するに十分である。

なお、各少女について説明文がついているが、特別に意味があるようなものでなく、また、表紙に全裸の写真を掲載し、ヌード写真集であることが一見して分かる体裁であり、性的刺激を緩和する表現は特に認められない。

8  「純少女」

前記「MAGIC BEAUTYくりぃむれもん」とほぼ同一内容の写真集である。

全四八頁中、約一五頁が全裸であり、全裸でない写真でも性器が写っている写真が多い。性器をぼかしたりせず、そのまま掲載されている写真すらあり、「MAGIC BEAUTYくりぃむれもん」よりも性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

そして、表紙に、全裸の少女の写真を掲載した上、美少女ロリータ写真集と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、性的刺激を緩和するような表現は特に認められない。

9  「のぞき屋1・2・3・4」

五から七歳と六から八歳の東南アジア系と思われる少女が、全裸でフリスビーをする場面等が撮影されているビデオである。

フリスビー場面は約一〇分間と比較的長く、児童の乳首や性器が映っている場面がある。児童には特に演技をさせている様子は認められないが、少女が自発的に全裸でフリスビーをするとは到底考えられない。臀部をアップにした場面があり、アップでなく、また短時間ではあるが、性器が見える場面が何度も登場し、フリスビー自体の動きとは関係なく、胸部や臀部を撮影し、ときには臀部や陰部が見えるように下方から撮影したり(なお、性器をモザイクでぼかしたりしていない。)、なかには、一分以上にわたって臀部や脚部を撮している場面があり、表現方法に性器等を強調する傾向が窺える。性欲を興奮又は刺激する内容といえる。

全裸でフリスビーをする表現上の必然性は認められない上に、同場面の前後には、児童の着替え、水浴び、滑り台で遊ぶ少女の下着などを盗み撮りした場面が脈絡なく延々と続いており、児童の健全な発育を記録するようなものとは到底認め難く、性的刺激を緩和するような表現は全く認められない。

五  故意について

1  被告人は、右四の1ないし9の写真集等を個人の観賞用として入手し、その内容を熟知していたものであって、故意に必要な認識があるのは明らかである。

2  もっとも、被告人は、捜査段階から右写真集等の一部について児童ポルノに該当しないと判断していた旨供述し、公判廷でも同様の供述をしている上、専ら写真集についてのみ広告を出していたことなど、写真集は適法であると信じていたことに沿う事実もある。

しかし、被告人自身が児童ポルノ法の施行前に警察庁のホームページで同法の内容を調べ、同法の規制内容を知っていたこと、被告人は美少女写真集を売りますという広告をパソコン通信に掲示していたが、パソコン通信の管理者からこれを削除され、警告を受けていたこと、同広告中には被告人自身も児童ポルノと認めているものが含まれていること、被告人が問い合わせを受けた際などに送る商品リストには、「のぞき屋1・2・3・4」について、以前は市販されていたが平成一一年一一月以降は販売していない旨の注記があり、被告人自身も児童ポルノ法施行後は市販されていないことを知っていたと認められること、写真集等の中には販売価格が三万円、五万円とかなり高額のものが含まれていたこと、さらに、捜査段階において、右写真集の一部について、自ら性的な刺激を受けるし、もしかしたら児童ポルノに該当するかも知れないと思っていた旨供述していることなどからすると、右誤信に相当な理由は認められない。

なお、被告人は、児童ポルノ法施行後に、テレビのコマーシャルの中に半裸の少女が出ていたこと、テレビの番組の中で外国人の少女が全裸で動いている姿が放映されたことから、右写真集等も児童ポルノに該当しないと考えた旨供述する。しかし、公序良俗に反するような放送は放送法三条の二第一項一号で禁止され、そのための厳格な内部基準(コード)があるのが通常である上、テレビのコマーシャル番組では、児童の裸体等が写る時間が短く、性器等を強調する表現もないのが通常であって、さらに、宣伝や娯楽のために、演出に工夫が凝らされている場合が多いので、児童ポルノには該当しないのが通例である。したがって、右写真集等のように児童の裸体等ばかりを集めたものとは、格段に性的刺激の程度が違うのであるから、これも相当な理由となるものでない。

3  よって、故意も認められる。

(法令の適用)

被告人の判示所為のうち、わいせつ図画の販売及びわいせつ図画販売目的所持の点は包括して刑法一七五条に、児童ポルノ法七条一項、二項に、それぞれ該当するところ、右は一個の行為が二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い児童ポルノ法違反の罪の刑で処断し、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、押収してあるビデオテープ一三巻(平成一二年押第三三号の20、21、62ないし72)及びベータ方式ビデオテープ四〇巻(同押号の22ないし61)並びに写真集一六冊(同押号の4ないし19)は、判示わいせつ図画販売目的所持ないし児童ポルノ法違反(販売目的所持)の犯罪行為を組成した物で、被告人以外の者に属しないから、同法一九条二項本文を適用してこれらを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑理由)

本件は、パソコン通信を通じてわいせつ図画及び児童ポルノ(以下「児童ポルノ等」という。)を販売し、販売目的で児童ポルノ等を所持したという事案である。

サラ金への借金返済などから生活が困窮したため、児童ポルノ等の販売をして金を稼ごうとしたという動機は誠に安易である。たびたび削除されたにもかかわらず、パソコン通信の掲示板に児童ポルノ写真集を販売する旨の広告を出していたこと、所持していた児童ポルノ等の数も決して少なくなく、実際に利得を得ていることなど、犯情は悪質である。また、販売または所持にかかる児童ポルノ等には、児童の性交場面などの痛々しい児童虐待場面が写されたものがあり、児童の心身に与えた有害な影響は軽視できない。

しかし、もともとは個人的趣味で集めた児童ポルノ等を販売したもので、顕著な計画性や営業性は認められないこと、一貫して犯行を認めて反省していること、前科前歴はないこと、相当長期間勾留されたこと、勤務先を諭旨解雇されたこと、既に児童ポルノ等は押収済みであり、再犯に及ぶ可能性が低いことなどの事情を考慮すると、被告人には主文の刑を科した上、その執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・今井俊介、裁判官・芦髙源、裁判官・綿貫義昌)

別紙一覧表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例